フランスに暮らす27歳のトマ(Thomas)さん(仮名)は、自分を育ててくれた「2人の母親」を誇らしく思っていることを世界中の人に知ってもらいたいと思っている。「僕は生まれた直後から2人の母親に育てられました。でも、それで悩んだことは全くありません」
だが、「両親」を守るために仮名での取材を希望したトマさんの意向には、同性カップルによる子育てに対する相反する考えが仏国内に存在する現実が垣間見える。
■「同性婚法案」に揺れるフランス政界
今年政権交代した仏社会党政権にとって、同性カップルの結婚と養子縁組は非常に繊細な問題となりつつある。
政府はフランソワ・オランド(Francois Hollande)大統領の選挙公約通り、この2つの合法化を盛り込んだ法案を11月7日に閣議決定し、来年1月に議会に提出する予定だ。だが、野党各党の議員121人は法案の棚上げを要求している。
反発は議会の外へも広がり、10月には法案に反対する市民らが国内75都市でデモを実施。同性婚が合法化されても執行を拒否するという宣言には、市町村長と地方公務員ら約1750人が署名した。
フランスでは、1999年に導入された「PACS」と呼ばれるシビル・ユニオン(市民契約)制度により同性カップルにも安定した共同生活が保障されているが、さらに一歩進んだ権利を認める同性婚法案には、カトリック教会が一夫多妻や一妻多夫、近親相姦や小児愛の合法化にさえつながりかねないとして声高に反対している。
■同性カップルに育てられる子4万人
PACSでは、同性カップルの結婚は認められていない。未婚女性の人工授精は違法なため、血のつながった子が欲しい女性同性愛者は国外で人工授精を受ける必要がある。男性同性愛者も国外で代理母を探さなくてはならない。
養子縁組を望む場合は、独身として申請し、法の抜け穴を使えば可能だ。だが同性カップルが破局したり死別したりしたとき、「非公式な親」には子どもに関する権利が一切認められない。
実際に同性カップルに育てられる子どもは増えており、仏国立人口研究所(INED)の統計によれば約4万人に上る。少なくとも片方の親が同性愛者の子供たちを含めれば、その数は30万人に達すると指摘する同性愛者支援団体もある。
■世論は同性婚に賛成、でも養子縁組では二分
世論調査では、国民の3分の2が同性婚に賛成している。しかし、同性カップルによる養子縁組の是非となると、世論は二分する。
反対派議員の1人は「大事なのは子供たちの権利であって、子を持つ権利ではない」と主張する。
法案をめぐって感情を高ぶらせているのは、反対派だけではない。マイクロブログのツイッター(Twitter)では10月23日、反対派を称するグループが作ったハッシュタグ「#UnPapaUneMaman(パパ1人とママ1人)」が、たちまち同性愛者の権利を擁護するユーザーらに乗っ取られ、国内トレンド1位に躍り出た。
同じ日、ソーシャルメディア上では法案反対派の抗議デモの目の前でキスする若い女性2人の写真が評判となり、法案賛成派のシンボルとなった。
■「大事なのは愛情」、出生のいきさつを説明する必要はあり
記事冒頭に登場するトマさんは、国外で行われた人工授精によって生まれた。同性カップルに育てられた体験をAFPに語ることを了承してくれた1人だ。「今まで隠し事をされたことはありません」と回想するトマさんも、今では1人の父親だ。
マリオン・ベルセロ(Marion Vercelot)さん(24)も、同様の体験を話してくれた。「両親は高校生の時に出会い、私がまだとても小さなときに離別しました。母は後にその理由を、男性よりも女性の方が好きだからだと説明してくれました。今までそれを気にしたことはありません。大事なのは与えられる愛情です」
だがそんなベルセロさんも、幼い頃は家族について聞かれると、あいまいな答えでお茶を濁していたという。
仏南東部リヨン(Lyon)で同性愛者の親を持つ子供たちの支援団体を設立したアレクサンドル・シュバリエ(Alexandre Chevalier)さん(38)の幼少期は、辛いものだった。ただ、それは父親が同性愛者だったからではない。社会的な「負の烙印」を恐れた父親が、何年もカミングアウトできなかったことが理由だ。
AFPの取材に応じた小児精神科医の過半数は、同性カップルの結婚と養子縁組を合法化しても、子供たちに出生の経緯をきちんと説明しさえすれば問題はないと答えた。
現在、同性婚が合法な国は世界に10か国あり、うち9か国が養子縁組も認めている。同性間のシビル・ユニオンを認めている国はさらに11か国ある
掲載元:
AfpBBNews
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